サイボウズ式編集長と語る 「必要とされる」オウンドメディアになるには

サイボウズ②

クラウドを用いたグループウェアや業務改善アプリなどで、「成果を生み出すチームづくり」を支援するサイボウズ株式会社。「cybozu.com」など、企業や組織内の情報共有やコミュニケーションを支援するソフトウェアの開発、販売、運用を行われています。

「継続的で魅力のあるコンテンツの提供」が難しいイメージがあるBtoB企業のオウンドメディアの中で、同社が運営されている「サイボウズ式」は独自のコンテンツで多くの人々の心を動かし、オウンドメディアとしての立ち位置を確固たるものにしています。
そんな「サイボウズ式」の編集長、藤村能光氏のオウンドメディアやコンテンツに対する想い、そして「企業のメディア化の価値」を伺いました。
ウィルゲートの事業戦略室部長であり、「暮らしニスタ」の責任者を務める林圭介との対談第一弾をお送りします!

サイボウズ①

藤村 能光(ふじむら・よしみつ)
アイティメディア株式会社で編集記者を担当後、
2012年5月の立ち上げ時からサイボウズ株式会社のオウンドメディア「サイボウズ式」に携わり、2015年1月より編集長を務めている。

 

「生活者との新しい接点を作ろう」という想いから

サイボウズ式のスタートはいつ頃なんでしょうか?どんなきっかけがあったんですか?

2012年5月からですね。もう丸3年になります。
創業から約10年は業績が右肩上がりでしたが、2008年くらいから売り上げが横ばいになってきて。この経営課題に対して、代表の青野が「まだサイボウズを知らない生活者との接点を新しく作っていこう」と考え、オウンドメディアに取り組むことになりました。

会社のフェーズとしても適切だったんですね。
いざメディアを立ち上げるとなった時に、具体的に「こうしていこう」というような方向性はすぐ固まったんですか?

いや、難しかったですね。自社メディアの目的は「サイボウズを知らない人に知ってもらう」というシンプルなものなんですが、「メディアで何をしよう」という部分は議論をしました。
弊社は組織で使っていただくグループウェアを作っているので、その組織に「チームワーク」が生まれることが自分たちのミッションになるんです。サイボウズを知らない人にこの価値を伝えるにはどうすればいいか、というところから考え始めましたね。

サイボウズ④

その後のコンテンツは、メディアを運営しながら試行錯誤してきた、というのが正直なところです。昔はチーム関連のコンテンツを多く発してきたのですが、最近は「働き方」に関するものが多いですね。
例えば、時間や場所に縛られないような“新しい働き方”に関する情報を、今世間の人が求めていると感じています。そこに対してうちは「子連れ出勤」や「育自分休暇」などの会社の制度、それが出来上がった背景にある「働き方に関する考え方」があり、これらで価値を提供できると感じているので、最近はそちらに注力しています。

サイボウズ式ならではの運営方法ですね。通常のメディアですと、コンセプトを決めて“それを達成するためにコンテンツを作る”方法が鉄則だと思うんですが、サイボウズ式はトレンドや今求められていることを加味しながら変化し続けているように感じます。

 

マーケティングをしてみたかった

藤村さんはサイボウズ式の立ち上げから携わられているんですか?

そうですね。立ち上げから参画しています。

ちなみに前職はどんなことをされていたんですか?

私はアイティメディアという会社で、メディアの企画、編集、取材を担当していました。サイボウズに入ったきっかけは、「マーケティングがしたい」という気持ちですね。前職の編集記者の時、多くの企業の担当者にインタビューをするなかで、「作ったモノやサービスを広めていく熱意」を感じることが多かったです。
「1つのモノやサービスの価値を、長期にわたって伝えること」に自分自身が挑戦したいと思うようになり、縁あってサイボウズに入社しました。その後、無料グループウェア「サイボウズLive」のマーケティング・コミュニケーションに取り組みながら、サイボウズ式にも立ち上げから携わりました。

 

最初は苦労の連続

サイボウズ式の編集部は何名だったんですか?

3名ですね。そのうち、編集経験のある人間は私だけでした。編集体制の構築は最初からしっかりとできたわけではなく、立ち上げ当時は、1つ1つの企画を自分たちで作り、取材もして、記事を書く・編集するということをやっておりました。
振り返ると「苦労してでもまずは自分たちがやってみることが大切だな」と強く感じますね。みんなで壁をひとつひとつ乗り越えていく、そのプロセスが重要だと思います。

僕も強く共感しますね。
うちも担当部署は1人1記事必ず一度アップする取り組みを行っていて。例えば男性のエンジニアが今話題のジャーレシピの記事を自分で作ってアップしていたりする。こういう経験ってとても大切だと思います。

 

効果測定はPVではなく記事へのコメント。コメントは全て見ている

サイボウズ式は「PVのみを指標にしない」と聞きましたが、効果測定ってどのように行われているんですか?

記事の定性的な反響を見ることですね。PVのみを指標にすると、その先の読者が見えにくくなるので、数字だけに縛られないようにしています。
反響がしっかりあるということは、それだけユーザーの心を動かせたということだと考えています。ちょっと非効率なやり方かもしれませんが、メディアは非効率さがあってこそ面白いと考えているので、記事やSNSでのコメントはすべて見ていますね。

なるほど。ソーシャルアクションやコメント等で効果を測っているんですね。

はい。例えば今までサイボウズがコミュニケーションできていなかった人のコメントがあると、「これまでサイボウズのことを知らなかった人に伝わっていた」と実感できて嬉しいですね。
これを続けることで、Web上にいる未来のお客様と接したり、新しいファンが生まれたりする可能性が出てくると思います。

 
サイボウズ⑥

このような運営姿勢に対して、社内からの評価はどうだったんですか?

正直、初めは関心も高くなくて、社内の理解が必要でしたね。なので初代編集長が、記事へのコメントやソーシャル上の反響をチェックし、社内に共有し続けていました。
これを泥臭く続けることで「サイボウズ式に反響がある」という事実が社内に伝わり、良い方向に進んでいきましたね。

 

メディアで企業の価値観(法人格)に共感してもらう

サイボウズ⑦

自社メディアが流行する中で大切なことは、「メディアを作る」ことに目を向けるだけでなく、「企業がメディア化する」ことだと思うんです。
メディア化とは、企業の主張だけでなく「人々の役に立つコンテンツを作り、メディアとして長期的に届け続ける姿勢や考えを持つこと」というイメージです。それができると非常に良いと感じていますね。
なぜって、会社そのものに共感してもらうことは非常に難しいからなんです。

僕も本当にそう思います。普段生活していて、「会社に共感しよう」とするシーンってまずないですよね。
今日ここまでSNSが流行している理由は、人は「自分と価値観が近い人に共感する」からで。なので、企業が何かしらの手法で人々の共感を得られるようになるととても強いと思います。

そう考えると、メディアという手法は取り組みやすいかもしれません。人は、共感した、役に立ったと感じたものは「誰かに伝えたい」と思うもの。それを踏まえた上でうまく企画を作り、メディアを運営すれば、反響も広がりも期待できます。

そうですね。かつ、その企画がかなりキモですよね。正直、「取り急ぎ流行っているしオウンドメディアを立ち上げよう」という企業が多くて現在バブル状態だと感じているんです。今後は「何のためにメディアを立ち上げるのか」を突き詰めて考えた上でメディアを運営していく企業が勝ち残っていくと思いますね。

そして、企業のフェーズを客観的に分析し、「今オウンドメディアを立ち上げるべきか」を見極めることも重要だと感じています。やはりオウンドメディアって長期的に見てとても良い施策なので、短期的な結果を求めるのであればリスティング広告などが視野に入ってくるはずなので。
サイボウズ式は企業のフェーズと、世に届けたいメッセージや価値が定まっていたことの両軸がきっと寄与して、素晴らしいメディアに成長されたんだと思います。

 
サイボウズ⑤

 

企業の“中の人”の想いを出していくべき

先ほど藤村さんがおっしゃっていた「自分たちがやってみることが大事」という言葉にとても共感しています。
例えば僕がクライアントのメディア運営をお手伝いしている時、「うちでもコンテンツ書きたい」とおっしゃっていただけるととても嬉しいですね。文章のレベルより、「その企業が伝えたいことを自分たちで伝えること」の方が圧倒的に大切だと考えています。

文章のレベルって、正直ほとんど関係ないと思いますね。文章が稚拙でも伝わるものは伝わりますし、逆に文章が良くても伝わらないものもあります。
やっぱり企業の“中の人”がコンテンツを作ることが重要だと思います。生活者とのコミュニケーションをどうすればより良いかを考えて仕事をされている方は、その企業の“中の人”だと思うので、その想いをコンテンツにしてほしいですよね。

ちなみにサイボウズ式はスタート時に社内寄稿等あったんですか?

最初はなくて、すべて自分たちで作っていましたね。メディア運営をする際はまず、この「生みの大変さ」を体験しておくべきだと思います。
何日間もかけて作ったコンテンツをまずは公開してみて、その結果や反響をもとに「今後の記事はこういったものにしていこう」というようにPDCAを回すのが大切だと思いますね。

 

サイボウズ式の未来

藤村さんの考えられている「サイボウズ式をこうしていきたい」という目標を聞かせてください。

「自社メディア」の枠の中だけで完結しないことですね。
目的は「サイボウズを多くの人知ってもらう」。これは今後もブレないと思うんですが、その手段が「サイボウズ式というWebサイトに来てもらうこと」に限られる必要はないな、と感じていて。
記事の転載やイベント開催、そして他のメディアと組んだブランドコンテンツなどの手段を通して、サイボウズ式のエッセンスを届けていけると感じています。
あくまでも新しい生活者との接点を作り、様々なところに価値を届ける。そのために様々な手法を展開していけたらと思いますね。

先日3周年イベントを開催されていましたよね。

 
イベント

 

そうなんです。このイベントで、読者の方との新しい接点を作りたかったんです。
サイボウズ式も3年やってみたっていうこともあるので、一見非効率かもしれませんが「読者と一緒にサイボウズ式について考える」というのはとても貴重な経験でした。

弊社も先日、自社メディアのリアルイベントを開催したんですが、主婦の方と新しい生活者との接点をたくさん作ることができ、やってよかったなって実感しました。

素敵ですね。イベントって、“中の人”と読者がお互いよい影響を与え合えるとても良い機会だと思います。
コンテンツを作るだけでコミュニケーションが完璧にできる、とは思っていないんです。例えばUIなど、コンテンツ上の価値を伝える上でもっと工夫できるはずです。どんな形でサイボウズ式が読者にとっての価値を提供できるか、チャレンジしてみたいと思っています。

aaaaaaaaa

 
サイボウズ③
 

編集後記

“自分たちはこれを伝えたい。”この想いがしっかりあるか否かに、オウンドメディアの成功はかかっている――。
1つ1つのコンテンツを自ら丁寧に生み出してきた「サイボウズ式」編集長、藤村さんの言葉だからこその説得力がそこにはありました。
私達も、ウィルログでは「その人の持つ想い」を第一に記事を作っていこうと改めて感じました。そして、ウィルゲートの事業としても、「メディア運営者の想いをコンテンツにする」と共に「ユーザーにしっかり届ける」ことで、より多くのお客様により高い価値を提供していきたいと思います。
サイボウズ⑧

サイボウズ社のオフィスには、エントランスの中央にりんごの木が!
カフェカウンターや社内報などが貼ってある掲示板、そして企業キャラクターのボウズマンも。
りんごの木になっていたボウズマンのノベルティは、記念にひとついただいちゃいました。
藤村さん、ありがとうございました!

公開日: 2015/07/01