「気持ちが入っているコンテンツは、人を動かす」 クラシコム編集者長谷川賢人さんの語る“編集論”

株式会社クラシコムの運営する「北欧、暮らしの道具店」にてライター・編集を担当されている長谷川賢人さん。
彼がメディアに携わる中で感じるメディア運営やコンテンツ作りのポイント、こだわり、大切にしていることとは?また、新境地のクラシコムにてチャレンジしたいこと、実現したいこととは?お話を伺ってきました。

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初めは小説家になりたかった

―ライターとして活躍されている長谷川さんが、初めて“書いた”のはいつ頃ですか?
高校生の頃ですね。僕は家にたくさん本があるわけでもなかったし、読書家でもなかったんですけど、高校の時にクラス替えで失敗して(笑)、教室でぽつん、としちゃったんです。そんな時に、読書家な部活の後輩に「やることないから本を貸してくれ」とお願いし、いろいろ借りました。小説が多かったんですが、なかでも江國香織さんや村山由佳さんなど、女性の作家さんのものが多かったですね。たくさん読むうちに、「本って面白いな、小説っていいな」と思い始めたんです。

それと同じくらいのとき、僕の母校では夏に文芸コンクールがありまして、「僕もやれるんじゃないか」と小説部門に出してみたんです。その時に賞をもらえたんですよ。
作文も好きだし、本も好きになったし、「文才あるんじゃない?」とテンションが上がりまして…そしたら、大学はAO入試で日藝に受かり、「これは行くしかない」と思って入学しました。
そこからは意識的に「小説を書くための勉強」をしていましたね。20歳の頃に書いた作品で小さな文学賞をいただいたこともあり、「小説家になれたらいいな」と漠然と考えていました。でも、当時はリーマン・ショック前で新卒も売り手市場だったし、一度は就職してみるかと。

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-大学卒業後はどんな道に進まれたんですか?
出版社を受けるも採用には至らず、紙の商社に進みました。株式会社竹尾という、本の装丁やお菓子のパッケージなどによく使われる紙を得意とする専門商社です。その頃はWeb編集者という職業すら知らず、営業部、販促部、仕入部、ECサイトの立ち上げなど様々なことを経験しました。
そこで3年ほど働くうちに、キャリアの行き詰まりも感じつつ、「自分はやっぱり書くこと、つくることが好きだ」と立ち返ったんです。あらためて編集職を未経験でも採用している会社を探した結果、メディアジーンに出会いました。入社後は、「ライフハッカー[日本版]」というメディアに配属されました。

 

2つのメディアで異なる“編集者として必要な力”の違い

なぜそこから「北欧、暮らしの道具店」のクラシコムへ転職されたんですか?

-クラシコムに出会ってしまった縁そのもの、そして僕なりの生存戦略ですね。
本当は転職する気なんて全くなかったんですよ。ただ、とあるきっかけでクラシコム代表の青木と縁があったんです。そこで彼の話すことや考えていること、やろうとしているビジョンが非常に面白いと感じました。そこであらためてクラシコムのサイトに載っていた「入社のプロセス」ページを見て、「面白いなあ」とワクワクして。もちろんそれまでもワクワクすることはあったんですが、新しい「ワクワク」を感じたんですよ。会社の仕組みや働き方、事業の考え方、扱っている商材……たくさんの魅力がありました。

僕個人のことで言えば、何より“編集の違い”を体感したかった。クラシコムの主な収益源はECですよね。すると、作るコンテンツの方向性も必然として変わっていきます。コンテンツがウェブ上でバズることよりも、来店されるお客様に僕らを好きになってもらう、信頼していただくことに価値が出てくるんですね。

そこで、これからの3年を考えたとき、広告収益型のメディアにあと3年携わって6年分の経験値を得るのと、広告メディアとECサイトにそれぞれ3年携わるのでは、得られるスキルの数が違うと思いました。
今って、Web編集者が世の中から求められている反面、人数は足りていないみたいなんですよ。未経験からでも人材を採用、育成して「Web編集者」を増やす向きもある。そこで今後も編集者として生きていこうとするなかで、性質の異なるメディアのスキルを持っている人材であることは、将来的にプラスになるんじゃないかと仮説を立てたんです。

 

北欧雑貨と北欧食器の通販サイト   北欧、暮らしの道具店
北欧、暮らしの道具店(http://hokuohkurashi.com/):
北欧を中心とした国々の食器や家具など、暮らしの道具を取り扱うサイト。
商品紹介やコラムなどは、主に社内の編集チームが制作している。

-具体的に、2つのメディアの編集でどんなことが異なりますか?
「北欧、暮らしの道具店」は、お店に来てくれるお客さんへの会報誌のようなもので、みなさんとより良いコミュニケーションを取るための手段なんです。言ってしまえば、「ショップスタッフブログの超豪華版」。スタッフブログとなると、“中の人”を好きになってもらうことが大切ですよね。「このスタッフさんが働いてるお店っていいよね」と思ってもらうためのコンテンツや編集力が求められます。

 

「面白い」と思う気持ちが大切

-確かに、全く異なる編集の仕方ですね。長谷川さんには、「コンテンツづくりの心得」ってありますか?
意識しているのは、「読者には必ずばれる」ということですね。「単なる情報なのか響くコンテンツなのか」は、入っている気持ちの量に寄るところがあると思います。情報も、SEOや解説など、目的があって割りきって出す場合はOKとしても、コンテンツはやっぱり人を動かすところに魅力がある。
以前、自分の原稿に「これ、面白いと思わずに書いてるでしょ」と先輩の編集者から言われたことがあったんです。確かにその時、期限に間に合わせることだけを考えていて、そういう気持ちがあったかもしれない…。たとえ、そんな状況だったとしても、少なくともその瞬間だけは書く対象の良いところをちゃんと見つめて、好きになって作らないといけないと教わりました。

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一般的なウェブメディアは記事数を稼いでなんぼのところもあって、難しい面も理解できますが、面白い、好きだ、これはすごい!という気持ちを込めないと、読者にばれて、コンテンツの目的を果たせなくなるかもしれない。テクニックも大切だけど、どんなに文章がきれいでも気持ちが入っていないと、つるつるした文章になってしまうと思っています。
たとえば、グルメ等の口コミも似たものですよね。筆者の「ここは美味しかった!」という気持ちが入った口コミやレビューは、読んで「僕も行きたい!」と本気で考えさせるチカラがあるし。
また、「コンテンツに対する、メディアのコンセプトを固めること」もかなり重要だと思いますね。ライフハッカーの時は「記事を読んだことが時間の消費になるのではなく、必ず自分の投資になる」という良いコンセプトがあったんですよ。平たく言えば、“読んだあとに必ずプラスになる”コンテンツでなければ、どれほど笑えてもバズっても、ライフハッカーでは「良いコンテンツ」にはなりえないということです。

わかりやすいコンセプトがあれば、編集部も外部スタッフも同じ方向を見て進んでいきやすい。だから、コピーライターと一緒にメディアや編集のコンセプトを一緒に決めたり、「僕らのメディアが成し遂げたいことを一言で表すとなんだろう」と考えてみたりするといいと思いますね。入社してみたら、クラシコムにも明確な言葉でコンセプトがあり、この考えはどうやら良さそうだと感じているところです。

 

決断力がカギ

もし長谷川さんが「自分の夢や目標への一歩が踏み出せない人」にアドバイスするとしたら、どんな言葉をかけられますか?

そうですね。ありがたいことにこの日本では、「普通に生きていけて、死ぬことはない」のですから、やりたいことはやってみたらいいのかなって。もし、今とは別にやりたいことがあって、生活や給与のことなど何かがそれを迷わせていたとする。でも、「本当にやりたいことがある!」と考えたのであれば、きっとそちらを取ったほうがいいです。あとは運と縁次第なところはあるけれど、チャンスをつかもうともがくはずだし、自分で自分の人生を変えられるんじゃないかなと。

それって一種の決断力だと思うんです。「~したい」という意志は、実はみんな持っている。けれど踏み出せない人が多いのは、思った以上のものを背負いすぎているのかもしれません。

家族や同年代とのギャップとか、考える上でいろいろなモノが障害になるでしょうが、どの程度の障害になりそうなのか、改めて棚卸しをしてみたらいいと思います。人生にとって本当に必要なものなのか、理解や賛同は得られそうなのか、一時的にレベルを落としても死なないのか、自分はどんな人生を歩みたいのか……。

意外と、大丈夫かもしれないですよ。僕もそうでした。

あとは決断してやるかやらないか、これだけです。

編集後記

一念発起、以前から好きだった「書くこと」を仕事にされてきた長谷川さん。
長谷川さんの「編集やコンテンツにかける情熱」をひしひしと感じた1時間半でした。

そして、「決断してやるかやらないか」という言葉。
非常に重みを感じました。
「やりたいこと」「やるべきこと」「障害になっているもの」など…一度立ち止まって“棚卸しする時間”は大切にしたいですね。

また、「北欧、暮らしの道具店」上の商品ページ写真は、すべて社内で撮影されているそうな。
日が差し込む素敵なオフィスでは、私達の取材時もシューティングが行われていました!

長谷川さん、素敵なお話をありがとうございました♫

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公開日: 2015/11/11