柳澤 大輔(やなさわ・だいすけ)
面白法人カヤック代表取締役
1998年、学生時代の友人と共に面白法人カヤックを設立。
同社は2014年12月東証マザーズ上場(鎌倉唯一の上場企業)、鎌倉に本社を置く。500万以上の人に遊ばれる「ぼくらの甲子園!」シリーズなどの自社ゲームアプリ、スマートフォンゲーム向けグループチャットアプリなどオリジナリティあるコンテンツを数多く発信するほか、飲食店「DONBURI CAFE DINING bowls」の運営や2009年、ビンボーゆすりを科学したプロダクト「YUREX」の開発プロデュースにたずさわる。
著書に「面白法人カヤック会社案内」(プレジデント社)、「アイデアは考えるな」(日経BP社)などがある。ユニークな人事制度(サイコロ給、スマイル給、ぜんいん人事部化計画)や、ワークスタイル(旅する支社)を発信し、「面白法人」というキャッチコピーの名のもと新しい会社のスタイルに挑戦中。
―まず、面白法人カヤックはどのように始まった会社なのですか?
大学時代の仲間と3名で共同経営の形でスタートしました。
今も昔と変わらず3人でやってますね。「友達と会社をやろう」、っていう人は多いと思うんですが、しっかり続けるのはなかなか難しいなと思います。
―一緒に共同経営している3人はどんな繋がりなんですか?
実は何もないんですよ。趣味やゼミ、クラスが一緒だった訳じゃなくて、感性が一緒だったんです。過去に何か一つのことに向かって共同作業をやったことはないんです。
左から、貝畑政徳さん、柳澤さん、久場智喜さん。
面白法人カヤックの代表取締役の3人。
でもあの2人を見て、改めてこんな人たちはいないな、とは思うんです。なんか理(ことわり)の外に来ている、というか。
普通の人の理って、ある一定のルールを元に動いているんだけど、彼らはその外にいる感じがしますね。時々人じゃないんじゃないかって思います。それでいて彼らはしっかり社会性を持っているので、なかなかいないタイプの人材だと思います。
―本社が鎌倉にあるのが特徴の1つでもあるかと思うのですが、どんなキッカケだったのですか?
鎌倉が持っている価値観が心地よいからですね。
企業って大きくなり続けなきゃいけないっていう宿命があって。成長を諦めちゃった企業は、生命体として苦しむことになるんですよね。
ただそれが過度になりすぎて、「企業は成長さえすればいい」となった時も同じく危険で。成長のプロセスにこだわるべきだと僕は思うんです。鎌倉という場所は「企業は成長とそのプロセスの両方が大切」ということを思い出させてくれる場所かなと。
-柳澤さんはカヤック以外でも、カマコンバレーなど色々な活動をされていますよね。
そうですね。カマコンバレーはITの知識やツールを武器にして、鎌倉を盛り上げたい人を支援している団体です。鎌倉で色々な人と知り合い、地域での活動をするなかで「企業は地域と連動していくべきだ」といった気づきがあって、この活動を始めました。
例えば、自分の会社に所属する以上はその会社が好きで、自分が作っている感覚になる方がハッピーじゃないですか。これは地域も同じだと思うんです。自分が住んでいるところを好きになり、「この街をよくしていきたい」と思えると、より住民もハッピーになるかな、と思って。そんな活動を作っていこうと決めました。
-鎌倉で一番最初に行った活動は何だったんですか?
カマコンバレーが立ち上がった最初の活動は、選挙のプロジェクトですね。
当時の鎌倉市議選には、約30人の定員に対し約50人の立候補がいて。誰に投票したらいいかわからない市民が多いという課題に対し、僕らがITを使って投票をしやすくするお手伝いをしました。
立候補者に「あなたはどんな人か」分かるような質問を投げて、その答えで彼らの人柄の比較ができるようなWebサイトを立ち上げたんです。
政策の比較だとわからないことがあるかもしれませんが、人柄の判断だと可能だと思って。これが最初のプロジェクトですね。
選挙って、自分たちの代表を決めるわけだから、直接自分たちがその地域作りに関われる最たるものなんです。加えて、国の選挙に比べて、自分たちの市や区の議員選挙って行く人が少ないと思うんですよね。でも本当は逆で、自分たちの市や区だからこそ、そちらもかならず行くべきだと思うんです。
自分たちも関わって、手伝う側になることで意識が変わるはずで。実際にこのプロジェクトに参加したメンバーは、どういう人が議員をやっているか理解するキッカケとなり、以降しっかり選挙に行くようになりましたね。
-確かに、市議会って身近な存在にも関わらず実は疎遠になりがちかもしれませんね…。
柳:根幹は、会社で言えば「組織を作る側に回る」方が面白いと思うんです。これは地域も一緒で、より影響力がある活動に市民や様々なメンバーが入っていった方が面白い。
カマコンバレーには、様々なプロジェクトがあって自分が好きなものに関わればよいというスタンスですし、カマコンバレーのスキームをそのままを地方に浸透させるためのアクションをしているチームもあります。僕もリーダーをやるときもあれば、やらないときもある。
地域って、誰かがトップリーダーである必要はなく、そして地域の活動はぼこぼこのアメーバ型でいいんじゃないか、って思うんです。
それぞれのリーダーがいて、それらを有機的につなぐ本部があって。
じゃあ本部が一番偉いかっていうとそうではないんです。交代制で、何かをやりたい人がやる、という形もよいのではないでしょうか。
カマコンバレーのような取り組みも、このように鎌倉がリーダーである必要はないので、多くの地域でこのような活動が活性化できたらいいな、と思っています。
また、鎌倉で生まれたものを他の地域でも使ってもらえると嬉しいですね。
例えば、私達が作った「今昔写真」というアプリを 使いたいと言ってくれている地域が今かなりあるんです。今治今昔写真とか、横須賀今昔写真、とか。
今昔写真のように、ここから更にITを使った「使いたい」と言ってもらえるようなサービスをつくることも僕の目標です。
今昔写真では、昔の写真をお持ちの方と、ボランティアの学生たちで、今昔写真を集めるイベントを行う。
集まった写真は、多くの方に楽しんで頂けるようにアプリとして広く世間に発信。
地元への愛着や誇りを育み、地域活性へとつながるプロジェクト。
-普通、「やりたい」と思ったことってなかなか実行に移せなかったりしますよね。
そうですね。ただ、「やりたいけどやれないな」と思ったことって、実は「そこまでやりたくないこと」かもしれませんよ。
-柳澤さんはいかがですか?
強くやりたいと思ったことはやってきたと思います。仮にやりたくないことでスタートしたとしても、愉しむすべを身に付けてやりたいことにしちゃうとか。
逆に僕は”これ”といった成し遂げたいこともないから、なんでも楽しいのかもしれないですね。
とにかくいろんなことを思いつくんです。「そしてこれはどうなるのかな」という好奇心を持つことがとても多くて。つまるところ、試したくなるってことですね。
そしてやるからには、オリジナリティをかなり重視しているんです。「新しい」ことを思いついたら、実行する。
カヤックでも同じスタンスですが、「思いついたらやればいいじゃん」といった考え方ですね。社員に対しても、思いついたからこそやりきって欲しいと思っています。
-今後柳澤さんが挑戦したいことはどんなことですか?
今はカヤックという会社の経営者として全力投球していきたいと思っています。それ以外という意味では、カヤックやカマコンバレーを通して経験したこと、中でも、作る側の人間になるためのトレーニング、つまりブレーンストーミングを小学校や中学の授業に取り入れる活動ができたらなと思います。
ブレーンストーミングは、アイデアを出すための技法ですが、思考をポジティブにする肉体的トレーニングだと思うんですよね。それを若くして見につける人が増えれば非常に前向きで楽しい社会になるのではないかなと。
公開日: 2015/10/29